
炎症反応の中で重要な役割を果たす白血球は、さまざまな種類(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球など)があります。これらはそれぞれ異なるタイミングや場所で適切に働きます。しかし、「どうして白血球は正確に炎症の場所を見つけ、必要な種類が選ばれるのか?」という疑問は、長年炎症学の大きなテーマでした。
その謎を解明する鍵となったのが、本書筆者の松島らが発見したケモカインという分子です。この発見により、白血球の「ナビゲーションシステム」が明らかになりました。
炎症組織への白血球の移動を導く分子機構
白血球が炎症の現場を見つけて浸潤するには、以下の重要な分子や機構が関与します。
1.ケモカイン(白血球の案内役)
ケモカインは、白血球を炎症部位へ導く「道しるべ」のような役割を果たす分子です。炎症が起きると、傷ついた組織や血管内皮細胞がケモカインを分泌します。ケモカインは白血球の表面にあるGタンパク質共役受容体に結合することで、白血球を特定の場所に向かわせます。
2.セレクチン(白血球を足止めする分子)
セレクチンは、血管内皮細胞と白血球の間で働くレクチン型糖タンパク質です。炎症が起きた場所では血管内皮細胞がセレクチンを発現し、これが白血球の表面にある糖鎖構造に結合します。この結合によって、血流の中を流れていた白血球は転がるように血管壁を移動し始めます。この現象を「ローリング」と呼びます。
3.インテグリン(白血球を停留させる分子)
白血球が炎症部位に近づくと、セレクチンの働きに続いてインテグリンという分子が登場します。インテグリンは、α鎖とβ鎖から構成される接着分子で、白血球と血管内皮細胞を強く結びつけます。この働きによって、白血球は血管壁に「しっかりと停留」し、炎症組織へと移動する準備を整えます。
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白血球の種類と浸潤の特異性
炎症の時期や部位に応じて、どの種類の白血球が浸潤するかはケモカインと受容体の組み合わせで決まります。以下は主要な白血球の特徴と役割です。
好中球:炎症の最初期に現れる部隊で、細菌や異物を素早く攻撃・除去します。
好酸球:寄生虫感染やアレルギー反応に特化した白血球です。ケモカインとの特異的な結合により適切な場所に誘導されます。
好塩基球:ヒスタミンなどの化学物質を放出し、アレルギー反応や炎症を促進します。
単球/マクロファージ:炎症後期に登場し、異物や壊死組織を除去する「掃除屋」の役割を果たします。
リンパ球(T細胞、B細胞など):適応免疫に関与し、長期的な防御応答を担います。
炎症環境による白血球誘導の仕組み
炎症部位では、血管内皮細胞がケモカインやセレクチン、インテグリンを適切に発現します。そして、白血球の表面にある受容体とこれらの分子が特異的に結びつくことで、白血球は炎症部位に誘導され、浸潤します。この精密な仕組みによって、必要な白血球が必要なタイミングで炎症現場に到達します。
白血球はどのようにして浸潤するのか?
白血球が炎症組織を見つけて浸潤するプロセスは、まるで「目的地に向かう旅」のようです。ケモカインが「ナビゲーションシステム」として白血球を導き、セレクチンやインテグリンが「道路標識」や「停留所」の役割を果たしています。この巧妙な仕組みを知ることで、炎症の制御や施術に向けた新たな可能性が広がるかもしれません。
(参考元:洋土社「もっとよくわかる!炎症と疾患」)
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