炎症が始まると、私たちの体の中では血管や細胞が複雑に連携しながら問題に対処しています。今回は、炎症の現場を組織学的な視点から覗き、その仕組みを解説していきます。

炎症のスタート地点:後毛細管細静脈
炎症が起こると、血管全体で反応が起きていると思いがちですが、実際に炎症が始まるのは「後毛細管細静脈」と呼ばれる、毛細血管の集合部位の先にある特殊な場所です。
この後毛細管細静脈は、背の高い内皮細胞が円周を形成しており、ここが白血球の組織への入り口となります。炎症が起きると、次のような変化が見られます。
血管の拡張:後毛細管細静脈の血管が広がり、血液の流れが一時的に増加します。これが赤み(発赤)や熱(発熱)を引き起こします。
血管透過性の亢進:血管の壁がゆるくなり、血液の液体成分(血漿)が周りの組織に漏れ出します。これにより腫れ(腫脹)が生じ、炎症の初期反応が進行します。
血流速度の低下:血液がゆっくり流れることで、血管内を巡回している白血球が「降り立つ」準備を始めます。
白血球の活躍:体を守る「応援部隊」
白血球は、炎症の現場における重要なヒーローです。後毛細管細静脈の内皮細胞が炎症因子(サイトカインなど)に刺激されると、白血球は以下のようにして働きます。
血管からの浸潤:血管の壁を通り抜け、傷ついた組織に移動します。この過程を「組織浸潤」といいます。
炎症因子の分泌:白血球が組織に到達すると、さらに多くの炎症因子を放出し、炎症反応を活性化させます。
異物や傷害の除去:マクロファージ(食細胞)や好中球が異物や壊れた細胞を掃除します。
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全身への影響:炎症は「局所戦」だけではない
炎症が進むと、局所(傷ついた部分)だけではなく、全身に影響を及ぼします。以下のような変化が見られることがあります。
全身的な発熱:炎症因子が脳の視床下部に作用して体温を上昇させます。これは体が異物と戦いやすくするための仕組みです。
内分泌系への影響:ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌が増加し、全身的なエネルギー供給が調整されます。
代謝の変化:肝臓が「急性期タンパク質」を多く作り始め、体が防御態勢に入ります。また、血糖値の変化(耐糖能異常)が起きることもあります。
精神状態の変化:炎症が長引くと、神経系にも影響を及ぼし、倦怠感や鬱状態を引き起こすことがあります。
白血球の供給システム:骨髄とリンパ系の活躍
炎症が続く間、白血球を補充するために骨髄やリンパ組織が活発に動きます。これにより、炎症現場には絶え間なく白血球が供給され、異物や損傷組織が完全に除去されるまで炎症反応が維持されます。
炎症は体全体の連携プレー
炎症は、単なる局所的な反応ではなく、体全体が協力して行う防御反応です。後毛細管細静脈を起点とした血管や白血球の働きだけでなく、全身に影響を及ぼすメカニズムを理解することで、炎症の重要性がより深く見えてきます。
(参考元:洋土社「もっとよくわかる!炎症と疾患」)
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